稍ゝおも

ややおもしろく、ややおもたく、jajaのJa,Ja,おもうこと

ヨーロッパ映画、ええな

『不実な女と官能詩人』Curiosa (2019)

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Curiosa — Wikipédia

「文藝ポルノ」「哲学ポルノ」とでも呼びたい高尚エロ映画の系譜がフランス映画にはあって、劇場公開されるときに「洋ピン」(何の略?「洋画ピンク」?)枠で公開されたり、ビデオやDVDになるときにはものすごい邦題つけられてアダルト棚に追いやられたりするので、わたしのようにおとなしいまじめなふつーの映画好き(はい、そこの人、ツッコまないように)には観るのがむずかしかったりするのですが、本作はそこまでもいかなくてせいぜいソフトポルノ程度か。でも、ノエミ・メルランNoémie Merlant、ニルス・シュナイデルNiels Schneiderといった新進スターが清新かつ美しい裸身を惜しげもなくさらして(みたいな表現も言い古されていますけど)美しいエロ絵巻を繰り広げてくれます。心理的苦悩の演技とか駆け引きとかが通り一遍で奥行きに欠けるとか、画面や編集や音楽などがむしろポップな感じでどんだけインモラルなことやっててもむしろ明るくあっけらかんとしてるので(自殺する登場人物もいたりするのに)ねっとりしんねり隠微なエロチシズムになってないとか、もうそういう無い物ねだりはなしにして、単純に美しいエロスを存分に楽しむ映画かと思います。ちなみにわたしは学生時代は仏文だったので、もちろんピエール・ルイスPierre Louÿsもアンリ・ド・レニエHenri de Régnierも読んでる。後者については原語でも読んだかな。マリー・ド・エレディアMarie de Heredia(ジェラール・ドゥーヴィルGérard d'Houville)については恥ずかしながら知らなかったけど、映画の元になった写真はどこかで見たことあった。むしろこの耽美的で官能的で自由奔放な雰囲気が19世紀末のフランス文化人らの世界だったのかなとも思います。
たぶんアメリカ人観客らがお子ちゃまであるせいで、またアート映画としてはちょっと弱いという理由からだと思いますがIMDbの評価などは低いようだけど、こういう普通に楽しめる中堅フランス映画、もっと輸入して欲しいなと思います。


『グレタ GRETA』Greta (2018)

en.wikipedia.orgあまりにも型通りのストーカー映画だからというわけか、こちらもIMDbなどの評価はあまり芳しくないようだけど、一貫して「不可能な愛」を描き続けてきたニール・ジョーダンNeil Jordanの、あからさまに監督好みの顔したクロエ・グレース・モレッツChloë Grace Moretzを(その怯える表情を)中心に置いたアイルランド映画(たとえニューヨークが舞台であろうと)として愉しむのが相応しいのでありましょう。イザベル・ユペールIsabelle Huppertは、もうこれを見てしまうと彼女以外のキャスティングは考えられない怪演(その老いがくっきり刻まれた顔が無表情に犠牲者を見つめる表情の凄まじいこと!ダンスする足元はようわからんが、むしろ短躯の彼女が立ちずさむ姿の恐ろしさも)。マイカ・モンローMaika Monroeの今の子っぽい強靭さもいい感じ。この人物配置からしてこいつ絶対殺されるなとわかる登場人物に、監督の最も古くからの盟友であるあの方(特に名を秘す)がきっちりキャスティングされているところも嬉しい限りです。ユペールはもちろん(現実には)フランス人だから物語でもフランス語訛りの英語を喋るのだけど、物語の途中でそのフランス語訛りは作ったものであり彼女は実はハンガリー人だと(いう設定が)明かされる。で、やはり元はハンガリー人であるリストの名曲『愛の夢』が重要なモチーフとなるあたり、やっぱりこれはヨーロッパの正統な怪奇映画であるのでした。