稍ゝおも

ややおもしろく、ややおもたく、jajaのJa,Ja,おもうこと

芳華-Youth- 馮小剛

zh.wikipedia.org日本語にも「芳紀」という言葉がありますよね。「芳しい華」で美しい青春時代を指す言葉なんでしょう。

なんともひとくちで感想が言える映画ではないです。力量のある監督だし、もちろん良くできた映画です。ヒロインを演じた苗苗を筆頭に俳優たちも素晴らしい。

1976年に17歳とは、物心ついたら周りは文化大革命という世代ですよね。物心ついた頃に周囲の環境を批判的に眺められる子どもなんていないです。ヒロインは実父がなんで冷や飯を食わされているのか、継父の姓を名乗るのがなんで有利か、自分がなんで家で虐められるのかがわからないで、自分に新しい人生をくれるはずの新しい環境に飛び込んで来て、そこでまた「汗が臭い」という理由でいじめに遭う(このあたりのディテールめちゃ説得力あります。)。まもなくそれがただしい戦いなのか問う登場人物はひとりもなく中越戦争に身を投じる(ちなみに大昔、ちょうど同じ70年代半ば、日本の新左翼学生運動ノンセクトラジカルたちも、文化大革命、それにポルポト政権を支持していたと記憶しています。わたしも、同時代で見たわけではないが『中国女』とか『東風』とか熱烈支持したしね。)

その後も登場人物らが巻き込まれるはずの混乱は、呆れ返るほどささーっと飛ばされていて鄧小平の影も天安門事件のかけらも出てきません。ただ幾つかのエピソードと、語られることのないヒロインの空白の混乱があるばかりで、むしろ何が「飛ばされている」(何が描かれていない)のかを見るべきなのでしょう。

スクリーンに映し出されるのは、ただ、あの(時代の革命的オペラやダンスに懐かしい)ことさらに胸を張って進むダンサーらの体の構え、美しく手脚をピンと伸ばしたダンス、ひたすら前向きに奏でられる音楽、ヒロインのくるくる回転するダンスの練習の動き、テレサ・テンの歌声、欠けた腕、紙幣、写真、街の風景、ポスター・・といったものものが、時代時代を雄弁に語るのみ。「美しい」とひとくちでは言えない「芳しく」「美しい」「華の時代」と、それを惜しむいまの声がそこに描かれるのです。