稍ゝおも

ややおもしろく、ややおもたく、jajaのJa,Ja,おもうこと

有色のうさぎ/黒いアリス

en.wikipedia.orgタイトルの「アス」とは、映画の中である登場人物が口にする Kiss my a×× (正確には違うんだけど)の方ではなく、同じ登場人物が口にする It's Us...すなわち「わたしたち」のアスなんだけど、カタカナにしちゃうと区別つかんよなぁ・・(ってきっと散々話題になってると思いますが・・。)
その人物を演じたEvan Alexにいちばん驚嘆しました。もちろん二つの人格を演じ分けたヒロインの Lupita Nyong'o もみごとなんだけど滂沱と流れる涙のせいもあってかえって分かりやすい(共感しやすい)。Evanくんの方はね、そういえばわたしたち(か、私だけか。残念ながらアフリカ系の人で親しく付き合った人がこれまでいなかったもんで・・)東洋系人種にとって、白人系の人たちの表情はわりと分かりやすいけど(外国映画のほとんどが白人が主役ということもあって)、黒人系の人の表情や仕草ってときとして謎なのよね、と彼の顔見ながら思ってました。表人格も比較的読みにくく作ってあるし裏人格となるとましてや読みにくい。お面やマスクかぶったりもするし・・それがまたみごとでしたね。
ホントに巧みな構成の映画で、白いうさぎの1羽ずつ入った籠の並ぶタイトルバックから仕組まれていて、そのなかに有色のうさぎがいて遠目で見ると一瞬その籠だけが空に見えたりもするのね。彼らは我々であり我々が彼らであり、そしてOnce Upon a Time in Hollywood で、ブラピが、ハリウッドの伝説では決して誰にも負けなかったという李小龍(ううん、この変換嬉しい!)に勝ってしまうほどのみごとな暴力を揮う、その(悪い奴らをやっつける時には堂々と揮って良いことになっている)暴力がひとつの焦点になっているのにちょうど対応するかのように、この映画でも、すこし過剰じゃないの?と時に思わせる(しかしその過剰そのものがまた伏線になっている)暴力の快感が焦点になっている。これは寓話か?そもそも「うさぎ」というモチーフつかったことからして鏡の国の「黒い」(有色の)アリスなのか、とも思うけど、そんなこと思わないでも、この世界の二重性に十二分に気づいている、そのことを恐ろしくも美しくも諷喩的にもかつ面白おかしくも描ききってみせる監督の力量に唸らされる。主人公の黒人ファミリーがリッチな白人ファミリーと親しいってのも(またその両者の邸宅も)重要な装置なんだけど、『ブラインドスポッティング』Blindspotting (2018) の、これはこれでものすごく切実な実感に裏打ちされてはいるけれどすこし感情的・感傷的に流れがちな物語と異なって、あくまでゲームのように格闘シーンや追跡シーンは愉しく快く遂行されセリフの端々にも笑いを含んで描き出される、表面的には映像の美しさと音楽のカッコよさを堪能する映画であると思います。
ホラー映画嫌いなんだけどこういうのは見る。「美しい」ホラー映画は大好き。